民法(相続法)改正(2019年7月1日施行分)

民法(相続法)改正のうちの第二段階。

①2019年1月13日施行 民法のうち、自筆証書遺言の様式の緩和に関する規定
②2019年7月 1日施行 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(全般)
③2020年4月 1日施行 民法のうち、配偶者居住権の新設等に関する規定


改正の概要

遺産分割等に関する見直し

  • 持戻し免除の意思表示推定規定(903Ⅳ)
    • 婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産(土地・建物)の贈与については、特別受益の持戻し免除の意思表示を推定する。
  • 遺産分割前の預貯金の払戻し制度(909の2、家手200Ⅲ)
    • 預金債権については、平成28年12月19日最高裁大法廷決定により、現金と同じく、預金債権も遺産分割の対象となる(=当然には分割されない)こととなったため、相続人全員で預金債権を行使する必要が生じたため、手当として制度が創設された。
    • ①遺産分割の調停や審判の際に家裁の判断で仮払いさせる方法(家手200Ⅲ)
    • 相続開始時の預貯金債権の額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額を当該相続人単独で行使する方法(909の2)
      • 相続開始後に残高が変動していたとしても、計算の基準時は「相続開始時」
      • 金融機関ごと150万円が上限。さらに、普通預金、定期預金ごとに計算する。
      • 法定単純承認となるため、相続放棄できなくなる。
  • 遺産の一部分割
  • 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲(906の2)


遺言制度に関する見直し

  • 自筆証書遺言の方式緩和(968Ⅱ)→2019年1月13日施行済み
  • 遺贈の担保責任(998、1000)
  • 遺言執行者の権限の明確化(1007、1012、1014~1016)
    • 遺言内容の通知義務新設(1007Ⅱ)
    • 遺言執行者の立場は相続人の利益ではなく「遺言者の意思の実現」することであると明記(1012)。
      • 1007Ⅱ、1012は、2019年(令和元年)7月1日前に開始した相続についても、施行日後に遺言執行者に就任した場合には適用あり(就任日基準)。
    • 対抗要件具備行為(899の2、不動産登記又は銀行への通知)は遺言執行者の権限であることを明記(1014Ⅱ)。
    • 遺言執行者を相続人の代理人とみなす旨の表現は廃止(1015)。
    • 復任権は原則可能となった(1016)ため、遺言執行者から登記事務の委任を受けることが原則的に可能となる。
      • 2019年(令和元年)7月1日より前に作成された遺言の遺言執行者の復任権は旧1016条による(遺言日基準)。


遺留分制度に関する見直し

  • 金銭債権化(1046、1047)
    • 遺留分「減殺」請求→遺留分「侵害額」請求
    • 2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続に関しては、遺留分侵害額請求がなされても、直ちに物件的効力は生じない。(=「遺留分減殺」を登記原因とする所有権移転登記は申請することができない)
    • 2019年(令和元年)7月1日より前に開始した相続に関しては、遺留分減殺の時期を問わず「年月日遺留分減殺」による所有権移転登記の申請が可能(R3.7.26鳥取地方法務局米子支局回答)。
  • 算定方法の見直し等(1042~1045)


相続の効力当に関する見直し

  • 権利の承継(899の2、新設)
    • 法定相続分を超える部分については、対抗要件具備行為(不動産登記又は銀行への通知)をしないと第三者に対抗できない。
      • 従前の判例実務を変更し、相続させる旨の遺言があったとしても、法定相続分を超える部分は登記なくして第三者に対抗できなくなった。
      • 相続させる旨の遺言をもっていたり、口頭で遺産分割協議が成立していたとしても、他の共同相続人が相続登記をし共有持分のみを処分してしまうと対抗関係で負けてしまうこととなるため、相続登記の迅速性が求められるようになる。
  • 義務の承継(902の2)
  • 遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等(1013ⅡⅢ)


相続人以外の者の後見を考慮するための方策

  • 特別の寄与(1050)